コスプレイヤー

Cosplayer

タイトルコスプレイヤー
監督インシワット・ヤモンヨン
制作国タイ
制作年2014
VDP上映年2018 -ポピュラーカルチャー-
上映分数27min
使用言語タイ語
字幕英語/日本語
タグコスプレ, テレビゲーム, マンガ, 喪失

作品紹介

ほとんど知られていないタイの軍服コスプレというサブカルチャーの世界を掘り下げる。軍服コスプレに魅了されコスプレ中心の生活になったいきさつを語る20代後半の青年ジュンに密着し、タイ社会における軍服コスプレイヤーたちの姿を深く描き出す。作品を通じて、マンガ、テレビゲーム、映画が現代のタイ社会で“消費”される様をうかがい知ることができる。

インシワット・ヤモンヨン

監督

バンコクに拠点を置くインディペンデント映像作家。アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画『ブンミおじさんの森』(2010年)と『光の墓』(2015年)でセカンド助監督を、『十年』(2018年)でチーフ助監督を務めた。ドキュメンタリーのみならず、長編映画や実験映画に関心を寄せており、愛国的でマッチョなヒーロー映画についての実験映像で構成された『The Bright Supernatural power of Nae Wat Doa』(2013年)や、タイのサブカル軽視を題材にした本作など、物語を伝えるための方法論を模索している。現在は自身の長編映画第一作のために脚本を執筆中。

監督へのインタビュー

このドキュメンタリーを制作した理由は?
どのようないきさつからこのテーマに取り組むこととなりましたか?

日本のポップカルチャーから生まれたコスプレは、タイの社会においても興味深いサブカルチャーだと思います。とはいえ、タイの多くのティーンエイジャー(と大人)たちは、タイ以外の文化を通じて自身を表現しがちです。つまり、文化の流れは国境で仕切ることができないのです。私はこのドキュメンタリーで軍人のコスプレイヤーに興味を持ちました。コスプレイヤーのコミュニティにおいては、あまり受けがよくないジャンルですからね。しかしこの作品のために調査を進めていくうち、歴史的な側面からもおもしろさを感じるようになりました。コスプレで軍人に扮するなら、軍服の歴史だけでなく、さまざまなアイテムをどこで入手できるのかを知る必要があります。自分だけで作り出せる空想世界のキャラクターとは本質的に違います。コスプレイヤーたちは可能な限り「本物」で「リアル」になりきった自分たちを見せ合うための特定知識が必要になるのです。この世界のすべての文化が結びつき、多かれ少なかれ影響を与え合っていると私は信じています。だからこそこのドキュメンタリーでは、メインストリームな文化と歴史上の出来事の数々が、どのようにしてこのサブ=サブカルチャーを形作ったのか、それをタイという文脈において明らかにしたかったのです。

選考委員コメント

速水 洋子

京都大学東南アジア地域研究研究所教授 文化人類学

タイのコスプレ界にあっても周縁的な軍隊コスプレに魅了された青年。米軍に憧れ、ロールプレイにふける彼は、しかしタイ軍のコスプレはしないという。タイ社会における軍隊コスプレイヤーたちの姿を深く描き出す。作品を通じて、マンガ、テレビゲーム、映画が現代のタイ社会で消費される様をうかがい知ることができる。

石坂 健治

日本映画大学教授、東京国際映画祭シニア・プログラマー

軍服コスプレはアニメの特定のキャラを模すのではない(そこがオリジナルなのだ)、と青年は語る。プレイヤーの多くはTVゲーム経由の米軍スタイルだ。ナチスや旧日本軍のコスプレはないわけで、そこの心性も訊いてみたくなった。

専門家によるコメント

平松秀樹

京都大学東南アジア地域研究研究所 連携准教授

比較文学・比較文化研究、タイ地域研究

 本編からは二つの背景をみることができるであろう。一つはコスプレ好きで、もう一つは制服などのグッズを含むミリタリー好きである。
 タイでのコスプレは既にかなりの歴史を持つ。以前はMBKというバンコクの中心にある大型ショッピングセンターの広場で定期的にコスプレ集会が開催されていたし、最近でも有名デパートでコスプレショーが頻繁に行われている。他の国と同じように日本のアニメ・コスプレがその主流であり、数か月前に取材したコスプレショーではかなり最近のマイナーなアニメキャラまで皆詳細に把握しており、筆者は話についていけず悔しい思いをしたのを覚えている。最後の葬式のシーンで女性が掲げたプラカードのタイ語は「ヤーラーナイカー」であり、日本の‘やおい’を元にしたBL(ボーイズラブ)おたくの決め台詞「やらないか」である。ちなみに今年に入り、BNK48の活躍で「おーた」(おたく)という言葉は、現在タイのお茶の間にまで浸透してしまった。また、ビデオではミリタリー衣装の調達先として何でも手に入るとの異名を取るJJウイークエンド・マーケットが出てきたが、伊勢丹デパートに近いプラートゥーナムの繊維市場は日本からのコスプレ用衣装の注文を大量に請負い、生産している。
 日本で「ミリ・オタ」といわれる人たちが野外でサバイバルゲームを楽しむ様子は雑誌などで紹介されているが、タイでも、女性男性を問わずミリタリー好きの人は結構いる。ビデオにも出てきた「ロー・ドー」(ラクサ―・ディンデーン)という高校生が任意で参加する選択科目の軍事教練も関係しているだろう。この過程で銃や戦闘服などのミリタリーグッズに興味を持ち、軍人そのものに憧れをもつようになる者も少なからずいる(私が住んでいるアパートにあるコーヒーショップのアルバイト女子学生もその一人である)。また、タイ人の一般的な「制服」好きも背景にあるかもしれない。タイ社会に浸透したイメージとしての凛々しい軍服姿といえば、タイ小説・映画で有名な日本人海軍大尉コボリをすぐに思い出す人もいるだろう。現在上映中の仙台を舞台とした最新映画「Gravity of Love」でも主人公が軍服コスプレでウエディングパーティに行き、「コボリ」と冷やかされるシーンがある。実際の一般のウエディングパーティでも高校の詰襟の制服で来てくれとのリクエストを受けることもある。日本マンガの影響で制服の第二ボタンをもらう話まで知っていたりする。
 一方、ベトナム戦争でアメリカ兵を多く見かける機会があったことも一因にあるかもしれない。ベトナムから大量のアメリカ兵がタイに寄港し、歓楽街が成立していったという話は有名である。ビデオで語られるウータパオ空港は、伊丹空港と同じように当時の米軍基地で、現在はタイの軍民共用空港であるが先年スワナプーム空港が占拠閉鎖されたときに臨時に使用され筆者もそこから帰国した。さらには、タイでも模倣の映画が数多く製作された「ランボー・シリーズ」の影響も考えられないだろうか。
 このように、本編ではミリタリーへの憧れと表現手段としてのコスプレ好きが融合しているのである。
 本編のラストの葬儀のシーンは賛否が分かれるとこであろう。以前、夜のエンターテイメントのコヨーテと呼ばれる女性数人が、亡くなった友人のために追悼のダンスをした際は社会から圧倒的な非難を浴びた。格好がセクシー過ぎたせいやおそらく遺族から許可を得ていなかったせいもあろう。今回筆者は、最後のシーンを十数人のタイ人に見てもらい意見をうかがったが、否定的なコメントは少数であった。遺族の同意もあり、できるだけしめっぽくないように故人を送りだしてあげようというタイの伝来の葬送の考えも、その根底にはあるであろう。全員でタイでも大流行したK-popの「ガンナムスタイル」を踊るシーンは圧巻である。
 ビデオの冒頭の本棚にある「ジパング」は、日本の自衛隊イージス艦みらいを扱った架空のマンガである。ところで、戦闘ロケでのダリー語あるいはパシュトゥー語のような言葉を話す登場人物はいったいどこから連れてきたのであろうか?