タイトル | 黄昏 |
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監督 | リリー・フー |
制作国 | マレーシア |
制作年 | 2020 |
VDP上映年 | 2021 -死と生と- |
上映分数 | 22min |
使用言語 | マレー語 |
字幕 | 英語/日本語 |
タグ | イスラム教, 介護, 孤独, 家族, 高齢者 |
作品紹介
『黄昏』は、高齢者が疎外される現代マレーシア社会での伝統的な家族の価値観の崩壊を見つめたドキュメンタリーである。いずれ誰もが高齢になるが、2030年にマレーシアの65歳以上人口は15パーセントに達することが見込まれている。私たちがこの映画で見ることは、さほど遠くない未来の私たちの運命だろうか。本作では、馴染み深い快適な家庭や自分が育てた子供たちから引き離され、老人介護施設で自活を余儀なくされる急増する高齢者たちを丹念に追う。プチョン地区にある介護施設で見ず知らずの人々に囲まれて徐々に年老いてゆくのは、かつて父母や祖父母だった人々だ。この作品は彼らの物語を克明に描き、虐待・搾取やネグレクトの痛々しい物語を伝える。
リリー・フー
監督
72歳で『黄昏』の初監督を務めたリリー・フーは、彼女自身が高齢者でもあり、運命に見放された高齢者の物語を伝えることが自分の使命だと感じている。監督の願いは、この作品がきっかけとなってマレーシアの高齢者保護政策が進展し、全国にいる見捨てられた高齢者の運命に関心が向けられることだ。
監督へのインタビュー
このドキュメンタリーを制作した理由は?
どのようないきさつからこのテーマに取り組むこととなりましたか?
現在のマレーシアには、高齢者、特に低所得層の高齢者の権利を保護する法律がありません。マレーシアは2030年に高齢社会になるとの予測もあることから、社会から疎外された高齢者たちの権利の擁護に今すぐ取り組む必要があると感じました。私が『黄昏』を制作した狙いは、高齢者の差別やネグレクト、経済的・身体的虐待、適切な高齢者住宅の欠如などについての問題意識を高めることです。このメッセージを一般の人々や政治家に伝えるため、私は視覚メディアを使うことにしました。視覚メディアは非常に印象的で、力強く、てきめんの効果があり、理解してもらいやすいためです。若年層の目を覚ます映画になればいいとも思いました。この作品をきっかけに、誰もが歳を取ること、そしてできるだけ早く高齢者問題に対処する必要があることを若い人たちに気付いてもらいたかったのです。アル・イクラス高齢者介護センターでの撮影を決めたのは、そこが私が取り上げようとする多くの問題の縮図のような場所だったためです。
審査員コメント
ニック・デオカンポ
映画監督、映画史家
『黄昏』は、老年期の憂鬱と死を直視した作品です。この映画には、老年期に対して幻想を抱かせるような映像は微塵もありません。本作は、全ての人々を待ち受ける、ねじくれた運命をありのままに映し出しています。高齢化とは、誰もが直面しなければならない現実です。このドキュメンタリーは、カメラの向こうの「老い」のあり様を赤裸々に映す一方で、これを暖かく、優しい思いやりによって包み込んでいます。このホスピスでは、歳を取って落胆し、自分の家族からも見捨てられた人々に介護を提供しています。これについて、この映画は、溢れんばかりの人間性とプロの介護が、傷つき、見捨てられた人々の心を見事に塗り替える様子を見せてくれます。老人や病人が死に見入られた時、年老いた人々をあと一日でも生き長らえさせるのが思いやりの心です。たとえカメラが絶望的で見捨てられた人々の様子をまじろぎもせずに見つめる間も、このドキュメンタリーは写し出される状況に対して何の判断も下しません。赤裸々な映像はカメラの前の対象を偽りなく映し出すばかりか、観客の意識に焼き付くものでもあります。これらの映像には、やがて全ての人が行き着く「老い」という事態を観客に気づかせる狙いがあります。年老いた人々を思いやることは、人生が巡っていることを確かめる一つの手段なのです。
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- タイ
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速水洋子
京都大学東南アジア地域研究研究所 教授 文化人類学
マレーシアのイスラーム教徒高齢者のための私立施設の日常の様々なシーン。この様な施設でカメラを回したことは貴重。主には設立/経営者女性の目から映し出されているが、家族に放棄されたり家を失ったり、身寄りがないなど様々な事情で来た高齢者の非常に多くは女性である。東南アジアの多くの社会と同様に、ここでも高齢期に至って家族がいない、あるいは家族に放棄されるとは、どれほど悲惨なことと考えられているか、映像を通じてひしひしと伝わる。彼らの表情が最も真剣に活き活きしたコーランを読んでいる短いシーン
が印象的。