あの夜

That Night

タイトルあの夜
監督ジェレミー・ルーク・ボラタグ
ラインプロデューサーアルン・シン
制作国フィリピン
制作年2018
VDP上映年2019 -ジャスティス-
上映分数20min
使用言語タガログ語、セブアノ語
字幕英語/日本語
タグテロリズム, トラウマ, ミンダナオ島, 暴力, 露店, 麻薬戦争

作品紹介

2016年9月2日にフィリピン・ダバオ市のロハス夜市で起こった爆弾事件の二人の生存者に、その後の生活を取材した。爆発で重傷を負った市場の露店商と、マッサージ中だった妻と息子を爆発で亡くしたトラック運転手の二人を中心に語られる。本作は、二人の生存者の悲劇から一年後の記録である。

ジェレミー・ルーク・ボラタグ

監督

ジェレミー・ルーク・ボラタグはフィリピンの新進映画作家で、フィリピン大学フィルム・インスティトゥートでは映画で文学士号を取得、優秀な成績で卒業している。彼の卒業制作の短編『あの夜』は国内外の映画祭で上映されてきた。現在はフリーの映画作家だが、受賞歴があり国内外に顧客を抱えたポスト・プロダクション会社のメディア・イースト・プロダクションでも働いている。

アルン・シン

ラインプロデューサー

アルン・シンは長年のインディペンデント映画ファンで、プロデューサーは本作が初体験である。意欲的な作家でもある彼は、デ・ラ・サール大学のマラテ文芸誌協会の栄誉あるOBでもあり、同協会からマイクロ短編小説を二編出版している。現在、彼は人材開発およびカルチャー・リーダーとして、大手の多国籍IT企業に勤めている。余暇はテレビゲームやボードゲーム、ギターの演奏、短編小説の執筆などを楽しんでいる。

監督へのインタビュー

このドキュメンタリーを制作した理由は?
どのようないきさつからこのテーマに取り組むこととなりましたか?

私もダバオ市の出身なので、『あの夜』のテーマには非常に思い入れがあります。この映画は戒厳令が敷かれたフィリピンのミンダナオでの対テロ戦争を取り上げ、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領のもとでのこの国の今の政治情勢を浮き彫りにします。このドキュメンタリーは悲劇の中にあるフィリピン人の精神力と打たれ強さを捉え、登場人物を通じてジェンダーや宗教、社会階級に関する分析を提供しています。

※インタビューはVDP2019入選作品発表時に行われたものです。

審査員コメント

山本博之

京都大学東南アジア地域研究研究所 准教授 メディア研究

「正義か無法か」と言わんばかりに剛腕をふるうドゥテルテ大統領。麻薬のない社会を目指す大統領を支持する気持ちと、その剛腕が結果として招いた爆弾事件で身近な人を失った悲しみが入り混じる。社会のジャスティスと個人のジャスティスはどう両立させられるのか。

アウンミン

医師、脚本家、監督

このドキュメンタリーの背景には、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領によって仕掛けられた「麻薬戦争」が存在します。ミャンマー(私の祖国)は国家指導者が交代する政権移行期を経験し、ドゥテルテがフィリピンで行っている事について賛成と反対の人々の間で大いに議論が行われました。しかし、彼の麻薬戦争がもたらす結果について考える機会はほとんどありませんでした。「あの夜」は、麻薬戦争の結果として生じた逆境を力強く示した作品です。本作は、ミンダナオのダバオの夜市を破壊した爆破事件の二人の生存者の心の傷と癒しの過程を綿密に描いています。「夜市では大変な困難が伴った生存者の暮らしが続いている」というラストシーンは、今も政情不安にさらされているフィリピンの大衆を力強く描き、彼らに寄り添うシーンなのです。