8月の手紙

August Letters

タイトル8月の手紙
監督マイ・フエン・チー(チー・マイ)&スアン・ハー
制作国ベトナム
VDP上映年2021 -死と生と-
上映分数26min
使用言語ベトナム語
字幕英語/日本語
タグコロナ禍, 喪失, 家族, 芸術家, 記憶

作品紹介

VDP作品募集の知らせがもたらされたのは、ある映画作家が彼女の父親の命日を追悼するとともに甥の誕生日を祝っていた8月のことだった。彼女は別の映画作家に声をかけ、コロナが引き起こしたロックダウンという状況のもと、2人の共通言語である映像を使って「死と生」のテーマに思いを巡らせた。このドキュメンタリーは、2人の監督やその家族の私的な物語を織り混ぜながら、生と死の意味を静かに思い、今日のベトナムの現代的な生き方や家族の関係を映し出している。

マイ・フエン・チー

監督
ベトナム人のライター/映画作家。フリーのコピーライター兼ジャーナリストを10年間務め、2015年にロンドン・フィルム・スクールでシナリオ制作の修士号を取得。卒業後は脚本家として働き、『A Brixton Tale』(2021年イギリス、スラムダンス映画祭最優秀長編作品賞ノミネート作品)、『My Mr. Wife』(2018年ゴールデンカイト賞最優秀作品賞)、『The Girl from Daklak』(2021年)の3本の長編映画の脚本に携わってきた。監督としてのデビュー作となった短編ドキュメンタリー『Down The Stream』はVimeoの2015年ベスト・オブ・ザ・イヤー賞の最終選考作品になった。現在は長編フィクションの監督デビュー作となる『The River Knows Our Names』の制作に取り組んでいる。同作品はメコン川沿いのカンボジア・ベトナム国境付近の無国籍地域での暮らしを映画化したものである。この企画は香港アジア映画投資フォーラムでウディネ・フォーカス・アジア賞を受賞し、ウディネ・ファーイースト映画祭、ロカルノ映画祭、バンコクASEAN映画祭、シンガポール国際映画祭などで共同制作マーケット、コンペ、ワークショップ、ラボに参加した。2023年の完成を目指して制作中。

スアン・ハー

監督

ダナンを拠点とするビジュアル/マルチメディア作家。出身地である中部ベトナムの社会的・文化的変化に焦点を当てた活動を行う。2015年にサイゴンを拠点とするアート集団「カオス・ダウンタウン・チャオ」を共同設立し、2019年にはダナンのクアンナムの土地や民族のアイデンティティーを追求するアートクラブ「ア・ソング・クラブ」を設立した。

監督へのインタビュー

このドキュメンタリーを制作した理由は?
どのようないきさつからこのテーマに取り組むこととなりましたか?

毎年8月は、チーの父親の命日が偲ばれ、彼女の甥の誕生祝いが行われる月です。私的な思いに没入したチーは、友人で同僚でもあるハーを心の共有空間に誘いました。生死がかかったコロナによるロックダウンの間、それぞれの部屋に閉じ込められた2人のアーティストは、この共有空間で互いに「手紙」を送り合いました。そのようにして、2人は一緒に、そして別々に、自分たちの思い出の跡をたどり、それぞれの家族の歴史や物語を探りました。

審査員コメント

山本 博之

京都大学東南アジア地域研究研究所准教授 マレーシア地域研究、メデイア研究

新型コロナウイルス感染症による行動制限中の2021年8月、ベトナムの映像作家のハーとチーが、それぞれの母親から自分の家族の「死と生」について聞き、その様子を映像付きの手紙にして交換することで「死と生」について考える。2人の家族の話が時おりシンクロしながら進むことで、それぞれの家族の死と生、コロナ禍のベトナムでの暮らしと弔い、そして家に縛られない人間関係の作り方へと、複層的なメッセージを含んで物語が展開される。

石坂 健治

日本映画大学教授、東京国際映画祭シニア・プログラマー

本作は2人の女性映像作家が交わす映像による往復書簡である。日本の連歌を連想させるが、多種多様な表象様式が矢継ぎ早に繰り出されるスタイルは魅力的だ。すなわち、米粒と豆粒で拵えられた卓上のファミリー・ツリー(家系図)が基になり、祖父母の代から現在までの親族の姿が、動画、写真、分割画面などを駆使してくっきりと浮かび上がる。故人をあらわす豆粒には、あたかも棺を埋葬するかのように白い粉が注がれる。コロナ禍で分断された作家同士の遠隔コミュニケーションの実践であると同時に、今年のテーマ「死と生」を表現する実践でもあり、単なる記録を越えてアートの域に達している。お見事!