叫ぶヤギ

Screaming Goats

タイトル叫ぶヤギ
監督タンサカ・パンシッティウォラクン
出演アンティチャー・セーンチャイ
制作国タイ
制作年2018
VDP上映年2019 -ジャスティス-
上映分数22min
使用言語タイ語
字幕英語/日本語
タグLGBT, イスラム教, 南タイ, 国境地域, 女性, 差別, 武力衝突

作品紹介

「タイ南部の国境地帯は危険で恐ろしく、住むべきところではない、暴力に満ちた場所だ。」メディアはたいていこの地方をこのように紹介する。しかし、南部の国境地帯は実際にはどのようなところなのだろうか。この作品は、女性同士のカップルの目を通じて、この地方についてのもう一つの見方にいざなう。

タンサカ・パンシッティウォラクン

監督

1973年バンコク生まれ。チュラローンコーン大学で美術教育を学ぶ。2004年の第四回台湾国際ドキュメンタリー映画祭でドキュメンタリー映画“Happy Berry”が最優秀賞を受賞。2005年の第10回釜山国際映画祭で「Heartbreak Pavilion」がプサン・プロモーション・プラン(PPP)の最高賞を受賞。2007年にはタイ文化省現代芸術局が毎年傑出した芸術家1人に送るシルパトーン賞を受賞。作品が上映された国際映画祭は、ベルリン、ロッテルダムなど他多数。

アンティチャー・セーンチャイ

出演

彼女は本作品の出演者。タイ南部の国境地帯パタニに住み、ムスリム地区であるパタニでLGBTの団体を設立している。プリンス・オブ・ソンクラー大学のパタニ・キャンパスで哲学の非常勤講師を務めた経験がある。アート(絵画)・セラピストで、LGBTの人権擁護活動家でもある。2013年に彼女が設立して運営を担ったBUKUは、パタニ県でフェミニストの書店やジェンダーを問わないサッカー・クラブ、女性福祉の場を運営する団体である。BUKUは反抑圧、交差性(intersectionality)フェミニズムと人権の枠組み内でSOGIESCの権利保護とLGBTおよび女性の福祉と男女平等の推進に向けてタイ南部の三県で活動している

監督へのインタビュー

このドキュメンタリーを制作した理由は?
どのようないきさつからこのテーマに取り組むこととなりましたか?

私は東南アジア現代史を専門とするベネディクト・アンダーソン教授と2005年以来の個人的な知り合いでした。彼は私に多くの提案をしてくれ、その中に「南部国境地帯の紛争について映画を撮ってはどうか」というものがありました。私がこの地域の出身者で、国境からわずか30分ほどの距離に私の田舎があったためです。この問題については、ごく表面的にですが、以前の作品で触れた事があります。“This Area is Under Quarantine”(08)や“The Terrorists” (11)などの作品で、問題を抱える地域からさほど遠くない所で起きた事件の話です。しかし、私は思い切ってこの地域に実際に足を踏み入れた事はありませんでした。アンダーソンは2015年に亡くなりました。タイで軍部によるクーデターが起きてから間もない頃でした。この事があり、私は自分が以前の作品で触れた事のない南部国境地帯と超国家主義のテーマを検討する事になりました。これら全ての事柄はベネディクト・アンダーソン(1936-2015)に対する追悼の意となってこの作品に表れています。

審査員コメント

速水 洋子

京都大学東南アジア地域研究研究所 教授 文化人類学

美しい色と工夫にあふれる構図による南部タイの平和な光景の映像を背景に、しかし語られるのは葛藤の経験や暴力への怒りである。十年前から南部に移り住んだという市民運動家の女性カップルが、自分らしく生きることへの目覚め、政治的な気づき、そして南部の状況に対する怒り、そこでできることをするという決意を語っている。

ホー・ユーハン

映画監督

監督はミステリアスな南部国境地帯の暴力と個人の暴力の歴史とを巧みに紡ぎ合わせています。一見すると二つの異質なテーマだと思われるものが、互いのことを説明し合うとともに反論し合ってもいます。この国の南部には、人為的(男性的)な政治的暴力が存在し、それと別の人為的な家庭内暴力とその被害者が存在します。監督が女性同士のカップルを選んだという事自体が、家父長制が浸透していることに対する政治的発言です。これは静かな抵抗の映画なのです。

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