タイトル | リトリト |
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監督 | グエン・ゴック・タオ・リ |
出演 | タ・タイン・タオ |
制作国 | ベトナム |
制作年 | 2015 |
VDP上映年 | 2018 -ポピュラーカルチャー- |
上映分数 | 15min |
使用言語 | ベトナム語 |
字幕 | 英語/日本語 |
タグ | アイデンティティー, コスプレ, ハノイ, 思春期 |
作品紹介
15歳の少女リト/ Ritoは学校でいじめられ、中学1年生の時に学校をやめてしまう。この作品では、リトがコスプレを現実逃避の手段として、別人になったり空想上のキャラクターに変身したりするようになったいきさつが描かれる。コスプレを通じて友情が生まれ、社会との折り合いがつけられる様子に焦点が当てられる。社会の変化やコスプレの流儀がベトナムの都市社会に及ぼす影響を鋭く描いた作品。
グエン・ゴック・タオ・リ
監督
1996年にベトナムのハノイで誕生。アカデミー・オブ・ジャーナリズム・アンド・コミュニケーションでマルチメディアジャーナリズムの学位を取得したばかりだが、 2015年より映像制作に携わっている。ベトナム映画人材開発センター(TPD)の映画制作コースを筆頭に、さまざまなコースやワークショップで映画作りを学んだ。初めて手がけたドキュメンタリー作品『リトリト』は、2つのGolden Lotus Bud Awardと1つのSilver Kite Awardに輝いている。
タ・タイン・タオ
出演者
2000年生まれ、ハノイ在住。
監督へのインタビュー
このドキュメンタリーを制作した理由は?
どのようないきさつからこのテーマに取り組むこととなりましたか?
私も以前はコスプレイヤーでした。それが初めてのドキュメンタリーを作り始めた理由で、映画のテーマはベトナムのコスプレコミュニティに決めました。最初に考えたのは、コスプレに対する偏見を変えたいという思いでした。私の国では今もなお、コスプレは時間とお金の浪費でしかなく、コスプレイヤーは奇妙で現実から逃避している人たちだという考えが大部分を占めています。しかし、この映画の主人公探しを進めるうちに、リトと偶然出会ったことですべてが変わりました。リトと彼女の半生記には、言葉で説明できない魅力がありました。リトはクラスメートからのいじめという問題に直面し、学校を辞めたあとは年齢的に違法と知りながらも仕事を探しました。友だちもいなければ、夢もない。そんな彼女に唯一の生きがいを与えたのがソーシャルネットワークでした。何年もの月日を経て、リトは彼女が自分本来の姿ではない時にだけ、世界に受け入れられていることに気付きます。そして彼女は、他人になりきるということを始めるようになります。外見を変え、行動を変え、自分とは違う人間になりきって。この映画では、コスプレで本当に彼女の存在が救われるのかどうか、あるいはそれが彼女の新たな問題となるのかどうか、あえて明確な答えを提示することはしませんでした。
出演者タ・タイン・タオからのメッセージ
私はかなり前に高校を中退した後、うつ病を患い、他者との交流をほぼ絶っていました。そしてその当時、自分が楽しめることとして気付いたのがコスプレで、この趣味のおかげで自分に自信を持てるようになりました。短編映画『リトリト』は、これまで私が出演した最初で最後の映画です。この映画は私の個人的な体験からインスピレーションを得ていて、撮影時の私は15歳でした。この作品のおかげで私は成長し、自分が進むべき道を見出すことができました。今では日系サービス企業で働き、ベトナムの外国語センターで日本語を学んでいます。この映画をすでに見た方はもちろん、いま見ている方、そしてこれから見ていただける方には、「幼い子供たちに対して無関心にならず、彼らの情熱と意思を理解し、支え、そして十分に教育を受けさせて」と伝えたいですね。子供たちが私のような人生を送らないで済むように。
選考委員コメント
石坂 健治
日本映画大学教授、東京国際映画祭シニア・プログラマー
東京ビッグサイトのコミケや六本木のハロウィーンにも似た風景のなか、コスプレという仮面を被ることで少女は周囲とうまくいくようになるが、新たな問題も生じるさまをカメラは的確に捉えている。
専門家による解説
坂川 直也
京都大学東南アジア地域研究研究所連携研究員・東南アジア映画史
『リトリト』は「ナレーション、説明テロップ」が使用されていない点で、ベトナムのドキュメンタリーとして、新しいと私は思います。従来のベトナムのドキュメンタリーは、社会主義リアリズムの影響が強く、ナレーション、説明テロップを多用するので。さらに、『リトリト』の最初の早送り、ラスト近くの逆再生も使用されていて、映像としてもユニークだと私は思います。
『リトリト』はベトナムの国内の権威がある映画賞『カイン・ジュウ・ バン(Canh dieu vang/ゴールデン・カイト)』2017年度短編部門、準グランプリに相当するシルバー・カイト賞を受賞した3本のうちの1本でした。ちなみに、2017年度はグランプリの受賞作がなかった年です。
また、監督のNguyễn Ngọc Thảo Lyさんはハノイやベトナムの演劇映画大学出身ではなく、ハノイの映画人材開発センター(TPD)で映画製作を学ばれたという点でもベトナム映画の新時代を私は感じました。
この映画人材開発センター(TPD)の創設者は最近、日本で開催された、ベトナム映画祭2018で上映された『漂うがごとく』の監督、ブイ・タック・チュエン監督です。『リトリト』のスペシャルサンクスのトップがこのブイ・タック・チュエン監督でした。
ハノイの映画人材開発センター(TPD)について、もう少し説明すると、TPDはベトナムの映画ファンや映画制作者をつなぐコミュニティとして徐々に成長し、ベトナム最大規模の映画制作者コミュニティのひとつです。
TPDでは、生徒が制作したショートフィルムの中で傑出した作品を決めるため、毎年8月に、金の蓮のつぼみBúp sen Vàng(ベトナム映画祭グランプリであるBông Sen Vàng 金の蓮花から)授賞式を開催しています。この金の蓮のつぼみ賞は若いベトナムの映画制作者にとって最も価値のある賞の1つで、その結果はベトナムの新聞でも報じられます。『リトリト』は金の蓮のつぼみ賞2016年のドキュメンタリー部門、最優秀作品賞受賞作です。以上の点から、『リトリト』はベトナムのインディペント発、ドキュメンタリー映画のニューウェイブに位置づけられると思います。
あと、被写体の方といっしょに来日されるというのも新鮮ですよね。
作品の背景について解説すると、
・舞台はハノイで、リトリトが働いているカフェは、Cafe, gaming Naruto はハノイのタイ湖(西湖)の近所です。彼女のバイト時給1万ドンは日本円だと約 45円です。
・『リトリト』に出てくるコスプレイベントは、ベトナムのイベント運営団体Orochiによって年4回、季節ごとに開かれている「Matsuri」系イベントだと思います。
・http://www.orochi.vn によれば、ハノイとホーチミンの両都市で開催されています。Haru Matsuri(2014から), Natsu Matsuri2011から, Aki Matsuri(2011から) and Fuyu Matsuri(2012)からです。
・ベトナムでもコスプレ文化が浸透しつつあり、今年の3月くらいに、日本のロケットニュースに、ベトナムの「コスプレをするニャンコ」が可愛すぎると大人気という記事が掲載されていて、ベトナムで猫にまでコスプレ文化が浸透しているのかと驚きました。ちなみに、猫の名前は chó(ベトナム語で犬)だそうです。
・『リトリト』は、コスプレともに、学校でのいじめを取り上げている点で新鮮だと思います。ベトナムで、いじめを取り上げたドキュメンタリー観たことがなかったので。東南アジアの映画やドラマだと、怪奇映画が結構、いじめを取り上げているんですが、そういういじめがらみの怪奇映画もベトナム映画ではまだ多くはないです。
・そして、エンディングロールの後、口が裂けたコスプレをした夜道を歩くリトさんに向けて、罵声が浴びせられるシーンが挿入されています。このシーンは、異なるものに対し、排除しようとする欲望、観客にもある、いじめやヘイトスピーチにつながる負の感情を想起させます。このシーンを挿入した点に私は感心しました。
11月16日の記事に、Nguyễn Ngọc Thảo Lyさんは
http://www.songtre.tv/news/gioi-tre/dao-dien-tre-nguyen-ngoc-thao-ly-ngai-gi-thu-di-41-14979.html
Trong tương lai gần, đạo diễn trẻ Thảo Ly dự định làm một phim ngắn và một phim dài.
短編1本、長編1本をつくるつもりだと応えていました。新作も楽しみにしています。
速水 洋子
京都大学東南アジア地域研究研究所教授 文化人類学
学校でいじめにあい中学1年でやめてしまった15歳の少女リトにとって、コスプレは現実逃避の手段であり、空想上のキャラクターを演じることで周囲と折り合おうとしている。ベトナムの都市社会の生きにくさの中でもがく少女の姿を鋭く痛々しく描いている。