
カンボジア・シアター
カンボジアでは伝統的なクメール演劇が衰退しつつある。観客が減っているだけでなく、その存在を知る人も少なくなってきている。この作品は演劇の伝統の維持と保護に携わる数少ないアーティストたちの情熱を伝えている。別の定職に就きながら、巡業の時期になると夜ごと集まって舞台を準備する人々の姿を感受性豊かに描く。
ソペアク・ムァン
カンボジアのプノンペンに拠点を置く映像作家兼映像プロデューサー。プノンペンのPSEスクール・オブ・メディアで映画制作を学び、国内外でいくつもの短編映画を手がけている。映像作家としてのみならず、カンボジアで撮影される国際プロジェクトのフィクサーやラインプロデューサーとしても活躍中。

撮影地 カンボジア
このドキュメンタリーを制作した理由は?
どのようないきさつからこのテーマに取り組む事となりましたか?
カンボジアではクメール演劇が衰退の一途を辿っています。今では誰も見にいかない、あるいはその存在さえ知られない
ようになっています。その昔、テレビやインターネットが普及する以前はとても人気があり、人々の娯楽として、また社交の場としてその役割を果たしていました。今ではこの伝統を絶やさないよう、同じ情熱を抱いたアーティスト数人が力を合わせ、カンボジア・シアターの継承に全力で取り組んでいます。日中は定職に就きながら、時間を見つけては集まり、季節巡業の舞台公演の準備に当たっているのです。
カンボジア・シアター
ソペアク・ムァン監督の作品『カンボジア・シアター』で取り上げられているバサック劇は、かつてカンボジアで非常に人気がありました。バサック劇は屋内でも屋外でも上演可能で、私も幼かった頃、父によく連れていってもらいました。カンボジア人向けにバサック劇を上演する劇場はプノンペンのあらゆる地域にありましたし、私たちも心からこの芸術を楽しんでいました。その当時はバサック劇を見たことのないカンボジア国民などいなかったといっても過言ではありません。ところが現在、この芸術はゆっくりと、しかし確実に姿を消しつつあります。バサック劇の伝統を復活させ、維持していこうとするソック・ソティー氏の尽力には心から感謝していますし、この芸術が私たちと共に生きながらえていくことを願ってやみません。私にとって、この映画を見ることは喜びでした。そしてこの映画を作り、バサック劇の価値を高めようというソペアク・ムァン監督の尽力には本当に感謝しています。
リティ・パン
短いながら盛沢山な映像を通じて、衰退しつつある伝統的なクメール演劇の現状を、演じるアーティストの苦労と情熱を通じて伝えている。別の仕事を持ちながら夜の舞台に集まる人々の姿が、この演劇を持続させようとする切実な思いを伝える。
速水洋子